
ナイル川の上で迎えた朝は、川面からのモヤのせいか、見たことのない色に染まっていた。晴れているはずなのにグレーブルーというのだろうか、水墨画のような雰囲気だが色味は弄っていない。アフリカの乾いた大地と悠久の大河がなせる絶景だ。


しばらくすると薄暗い川面から小舟の漁師の姿が浮かび上がってくる。そこかしこに仕掛けた網を揚げている。
クルーズ船がナイルの上流に向けてゆっくりと進む中、私はしばらく彼方此方の小舟を眺めてはシャッターを切っていたのだが、そこに「神の小舟」を見つけた。

初めは、小舟のヘリに1羽の白鷺が止まっていて、珍しいなぁ…なんて思っていたのだが。

次から次に白鷺が小舟の周りを周回し出したのだ。その間、ヘリの白鷺はガンとしてその場所を譲らずにじっと漁師のそばを離れない。

ついには6-7羽の白鷺が集まって小舟の周りを離れない。2人の漁師は白鷺たちを全く気にする様子がない。多分毎日のように集まって来るのだろう。
なぜこの小舟にだけ白鷺が集まってくるのか、そして舟のヘリに陣取って譲らないのだろうか。
私は3つの可能性を見立てた。
① 他の漁師が獲らない白鷺たちの大好物を獲っている、例えば小エビとか? つまり味。
② 他の漁師よりもとんでもなく大量に捕獲するから、おこぼれが多い。つまり量。
③ その両方。
ナイル川の漁師を全て見たわけではないが、少なくとも私が2日間で見た10艘程の小舟に、白鷺は止まっていなかった。 また、小舟の周りを白鷺が周回している(あるいは別の鳥たちが)ことも見なかった。1羽たりともだ。
鳥に囲まれる…今年の夏観た宮崎駿の【君たちはどう生きるか】のワンシーンが思い浮かんだ。あれはペリカンだった。あるいはヒッチコックの【鳥】カラス。
鳥好きな私ですら、自分の周りを多くの野鳥が周回し出したら薄気味悪いと思うだろう。
謎は謎のままだが、もう2度とこんな光景を見ることはあるまい。
で、私の推察の結論は3、味良し量良しおまけに愛想よしだ。
彼の漁師たちの愛想が良いかは知る由もないが、ヘリに止まった白鷺は居心地良さそうだったから、きっとそうに違いないのだ。
